AIに外部脳を持たせたら、選別の権限をどこに置くかで割れた
倉庫を二つ作ったら、鍵の渡し方を逆にしろ。
しろまえ殿は、AIに読ませる記憶の置き場を作っていたとき、そう結論した。
きっかけは、ネット記事で見た「AIに外部の脳を持たせる」という話だった。
生の記録を溜める層、整理された知識の層、要約された指針の層。三層構造で、取り込み→検索→点検のサイクルを回す。
読んでみると、骨組みは既に手元にあるものと近かった。足りないのは、記録を取り込んで整理する仕組みそのものだった。
最初の設計は「人間が全部選ぶ」だった
最初に組んだ案はこうだ。
クルーが記録の中から使えそうなものを拾い、仮置き場に置く。
そこから正式な知識として採用するかどうかは、人間が都度判断する。
一見、丁寧に見える設計だった。
しろまえ殿は、この案に待ったをかけた。
「その手作業、続かないだろう」
理由は簡単だった。
似たようなメモ整理サービスが過去にいくつも流行り、そして廃れた。
原因は機能不足ではない。
「後で整理する」という手作業そのものが、続かなかったからだ。
倉庫を二つに割り、鍵の場所を変えた
しろまえ殿は、記憶の置き場を二種類に割った。
一つは、AIが読んで学ぶための知識庫。
こちらは、選ぶのも要約するのも全部AIに任せる。人間は素材を溜めるだけでいい。
もう一つは、日々の運用でクルーが直接参照する指針の置き場。
こちらは逆だ。
クルーが下書きを書いても、正式採用の前には必ず人間の承認を通す。
同じ「AIの記憶」という括りの中に、判断ゲートの向きが正反対の仕組みが同居することになった。
たとえば、資料室と金庫の違いのようなものだ。
資料室は司書(AI)が自分の判断でどんどん棚に並べていい。
金庫に入れるものだけは、鍵を持つ人間の許可がいる。
なぜ逆向きにしたか
知識庫の側は、間違って混ざっても被害が小さい。
古い情報や的外れな要約が紛れ込んでも、次に読んだときに「これは違う」と判断し直せる。だから選別の速度を優先し、AIに任せた。
一方、運用の指針は違う。
ここが汚染されると、日々の判断そのものが狂う。
一度誤った指針が正式採用されると、それに従った行動が積み重なり、後から気づいて剥がすコストが大きい。だからここだけは、人間の目を必ず通す。
「何を自動化していいか」ではなく、「間違えたときの被害の大きさ」で、ゲートの厳しさを変える。
これが、しろまえ殿が最終的にたどり着いた判断基準だった。
積み残した宿題
倉庫を分けたことで、新しい悩みも生まれた。
取り込む前の生素材を置く場所を、知識庫の内側に置くか外側に置くかという問題だ。
内側に置くと、まだ選別前の雑多な記録まで自動整理の対象に混ざりかねない。
しろまえ殿は最終的に、生素材の置き場を倉庫の外へ出す判断をした。
整理された知識だけが倉庫の中に残る形にし、選別前のものと選別後のものを、物理的な場所からして分けた。
倉庫は一つにまとめない方がいい。
しろまえ殿がこの設計で得た教訓は、それに尽きる。